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2007年3月29日 (木)

脱線事故の車掌証言にみるコミュニケーションの課題

 2005年4月に起きたJR福知山線の脱線事故(兵庫県尼崎市)で、事故車両に乗務していた車掌が応じた新聞の取材内容が公表された。

参考・引用記事:3月29日3時2分配信 毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070329-00000017-mai-soci

 コミュニケーションを研究している私が特に注目したのは、「事故直前に駅でオーバーランした距離の過少申告について、運転士と口裏合わせをした際、乗客への対応で車内電話を途中で切ったことについて『運転士は、(自分が)怒ったと思い、不安だったかもしれない』と語った」という部分である。

 車掌が運転士と電話で会話をしている途中で、男性客からおわび放送を求められたため、運転士との電話を切ったというのである。そのことについて、車掌は、「高見運転士は(口裏合わせの求めに自分が)怒ったと思ったのかもしれない。(切る前に)『まけるよ』とは言っておらず、不安だったかもしれない」と語っている。

 ここでは、「口裏合わせの是非」や、「列車停止装置の設置などの問題」は置いておくが、車掌が語った言葉の中には、コミュニケーションにおけるさまざまな課題が示されていると考えるので、その中のいくつかを次に示す。

○緊急時のコミュニケーションありかたの問題。
○不完全なコミュニケーションに起因する「思い込み」「誤解」などの問題。
○不完全なコミュニケーションへの対処法についての知識とスキルの習得の問題。

 コミュニケーションという観点から考えると、これらの問題が一つのきっかけとなって、大きな事故が起こってしまったと言えよう。

 そして、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会による事実調査報告書では、運転士が車掌から指令への報告内容に気を取られていたため、ブレーキ操作が遅れた可能性があることを示唆している。

 人間の対応能力を超える事態の渦中においては、この事故における運転士や車掌でなくても、誰でも同じような状況に置かれたら、同じような対応をしてしまう可能性が高いであろう。したがって、これらの事故への対応を、個人の責任や人災というレベルで終わりにしてしまうのではなく、どのようにすれば今後に活かせるのかを考え、実行していくことが求められている。
 そして、これらの課題に対して少しでも実効性のある具体的な改善を推し進めたいとの思いで、私は〈対話法〉の普及を提唱しているのである。

 話を戻そう。
 2年近くたっても事故の遺族らに謝罪していない点について、車掌は、「謝りたい気持ちでいっぱいだったが、事故を防げなかったことをうまく説明できるかわからず、そのうち外で人に会うことさえ怖くなってしまった」と述べている。

 この車掌に限らないことであろうが、一般論として、大きな事故の前後の状況や、その時、どのようなことを考え、どのような判断をしたのかということを客観的に語ることは難しい。
 大きな死亡事故の場合は、それに加えて、遺族や負傷者から責められても仕方のない責任のある立場にある者としては、それらの人たちと向かい合って、きちんと謝罪できるだけの精神力をもつことは常人では難しいことであろう。

 このような場においては、感情的な発言のやりとりになってしまうことが多い。そして、それによって、双方が傷ついてしまう可能性が高いのである。これが二次被害である。
 特別なコーディネーターがいない状況で、普段の会話で行なっているように、お互いが自分の言いたいことだけを言い合うだけでは、より傷を深くしてしまう可能性が高いのである。

 このような場において、少しでも冷静に、意義のある話し合いをするためには、原則として、双方が相手の言い分をよくきいて(傾聴)、自分の理解した内容が合っているかどうかを相手に確かめて(確認型応答)、それが合っていたことが確認されてはじめて、自分が言いたいことを言う(反応型応答)というプロセスを踏むことが重要なのである。

 この方法に近いことは、これまでにも、専門家による、さまざまな相談、調停、紛争解決の場面で実践されてきたことではあるが、一般の人が使える「簡略化したスキル」として明文化したのは、〈対話法〉が初めてのことである。

 ところで、日本航空やJR西日本が、一連のトラブルや事故の対策の一つとして、社内での「確認会話」を導入したという報道後、これと関連する「確認型応答」を提唱する対話法研究所のホームページへのアクセス数が増えている。

 これまでも、私たちは無意識あるいは意識的に「確認」をしていたのであるが、今後は、「より意識的に」確認をするスキルと習慣を身に付けることが、コミュニケーションの不全に起因するトラブルや事故を防ぐ第一歩であると考える。

 もちろん、コミュニケーションの改善だけであらゆるトラブルや事故を防ぐことは不可能である。また、人間にはミスやエラーがつきものであるから、完全なコミュニケーションというものもあり得ない。その点は、フェイルセーフ機能などのハードウエアの改善や、組織改革や社員研修の充実など、さまざまな改善が必要である。
 しかし、忘れてならないことは、これらの改善をする全てのプロセスにおいて、関係者相互の「コミュニケーションの質」が結果を左右するということである。

 対話法研究所としては、コミュニケーションの改善によって防止できるトラブルや事故を一つでも少なくするために、コミュニケーションにおいて重要な役割を果たす「確認型応答」の有効性をアピールし続けていきたい。

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2007年3月21日 (水)

〈対話法〉の効果を実証する試み

 対話法研究所の浅野は、昨年(2006年)末から今年にかけて、「確認スキル」(〈対話法〉で提唱されている「確認型応答」に相当します)を中心とした傾聴訓練が、高校生のコミュニケーションスキル、孤独感、学校生活満足度に与える効果を研究しました。

 なお、今回の研究のように、「傾聴訓練」のみの効果をデータを示して実証する研究は、これまで意外と少なく、とくに高校生を対象としたものは皆無に等しいため、貴重な研究結果であると言えるでしょう。
 また、「確認スキル」の訓練効果は、言い換えれば〈対話法〉で提唱されている「確認型応答」の訓練効果に相当するため、今回の研究は、〈対話法〉の効果の実証を試みたことになるでしょう。
 今後、小中学生を対象として同様の研究が行われることを期待しています。

 研究では、高校3年生(訓練群3クラス90名、統制群3クラス82名)を対象に、「確認スキル」をターゲットスキル(訓練の中心となるスキル)として傾聴訓練を行ないました。

 訓練群(実際に訓練を実施したクラス)では、ホームルームと読書の時間(合わせて20分)を使って、4〜8回にわたり、クラス担任の指導により訓練が実施されました。
 訓練は3人(発言者、確認者、観察者)1組で行われ、発言者が自分の言いたいことを話したあと、確認者が発言者の話の要点を言い返して確認する形で発言と確認を繰り返し、約3分後に発言者と確認者が役割を交替するという方法でした。
 一方、統制群(訓練を実施しないクラス)では、その期間中、通常のホームルームと読書の時間を過ごしました。

 訓練前、訓練終了後、その約1ヶ月後の3回、両群に対してアンケート(心理尺度による測定)を実施しました。

 その結果、傾聴訓練が、「同輩とのコミュニケーションスキル」の低い生徒のスキルを向上させることがわかりました。
 また、もともと孤独感が高い生徒の場合、傾聴訓練により孤独感が低減する傾向にあることがわかりました。
 さらに、学校生活に不満足感をいだいている生徒の場合、傾聴訓練によって「学校生活満足度」が増大することがわかりました。

 このように、今回の研究により、「確認スキル」(確認型応答)のみをターゲットスキルとした傾聴訓練に一定の効果があることがわかりました。

 一般的に、コミュニケーションスキルが不足している、孤独感が高い、学校生活満足度が低い生徒は、さまざまな問題行動を起こしやすいと言われていますが、このような生徒への予防的な教育活動の一環として、「確認スキル」(確認型応答)のみをターゲットスキルとした傾聴訓練を用いることが期待されます。また、学校における「いじめ」問題の対策の一つとしても効果を発揮するものと思われます。

 研究の詳細は、近いうちに、対話法研究所のホームページに掲載する予定です。

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